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【スペシャル対談】 「外食力」著者・中田宏氏&ロイヤルHD会長・菊地唯夫氏が語る、外食業界の可能性

2018年秋、書籍「外食力」が発売された。衆議院議員や横浜市長を経て、現在はシンクタンク「日本の構造研究所」の代表を務める中田宏氏による著作だ。同書では、「365日のうち350日外食する男が考える、外食のこれから」と謳い、外食業界の抱える課題や将来性について独自の視点から解説している。元政治家という肩書を持ちながら、外食業界に並々ならぬ情熱を燃やす中田氏は、今後も外食業界の発展のために活動する意欲を見せている。

そんな中田氏に期待を寄せるのは、ロイヤルホールディングス会長の菊地唯夫氏。2010年に同社の社長に就任し、業績不振を建て直した手腕で知られている。最近ではキャッシュレス化やAIなどの新しい取り組みにもチャレンジし、業界をリードする存在として注目を集めている。

今回は、そんな外食業界の未来を背負う2人をゲストに迎え、対談を実現。その内容をレポートする。


ゲスト:中田 宏氏

ゲスト:菊地唯夫氏

インタビュアー:フードスタジアム主幹・佐藤こうぞう

※以下、敬称略

佐藤:本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。私、フードスタジアム主幹の佐藤こうぞうがインタビュアーとして対談を進行させていただきます。

▲中田宏氏「外食力」。外食の抱える課題や将来について独自の視点で解説している

佐藤:中田さんの著書、「外食力」は発売してからすぐ購入して読みました。外食が抱える様々な課題をやさしく解説しながらポジティブにとらえている。これからの日本にとって外食が大切になるということを書いていて素晴らしいですね。こういう視点があると業界に深みが出ると思います。本日の対談では、この本で触れられていた話題を深堀していこうと思いますが、その前にまず、なぜ中田さんは外食に関する本を書こうと思ったのでしょうか?

中田:ありがとうございます。本を執筆しようと思ったのは、2つの外食に関する縁があったから。まず1つは、自分の外食の原体験として、学生時代に多くの飲食店でアルバイトをしたことです。初めてのアルバイトは、高校生のときに地元の夏祭りで焼鳥を売ったこと。それから地元のレストランで働いて、大学生になってからは銀座や赤坂の高級レストランに。さらにチェーン居酒屋でもバイトしました。その中で私は多くのことを学びました。このように外食の内側から見ていたので、外食にはひと際、愛着があった。

もう1つは、衆議院議員時代、外食の業界団体であるJF(日本フードサービス協会)や、外食企業の社長達と交流する機会があり、彼らと関わるうち、外食の課題や可能性をつくづく感じるようになった。だから、この「外食力」を書くに至ったんです。

飲食業界の”外の人“である中田氏の発信力に期待

中田:私はこの本で「外食業界は本当にブラックなのか?」という問いかけをしました。世の中に様々な産業、様々な会社がある中で、外食はとくに人々の目つきやすい。国民にとって身近な存在だからです。横浜市長時代、多くの労災案件を見聞きしてきましたが、例えば小さな町工場で身体に重篤な障害を残すような大事故が起こっても、一般的な知名度が低ければ、大きく取り上げられず記憶に残りにくい。しかし外食は、「いつものあの店」「みんな知っているあの店」と、メディアも取り上げやすい。世の中にさらされ、人々の記憶に残ってしまう。ですので、1つの事例でも大きくフューチャーされ、「外食業界=ブラック」というイメージが必要以上に人々の印象に残ってしまうのです。

一方で、だからこそ、何かが起こればすぐにアクションが起こる業界でもある。変化が早い業界なんですね。

菊地:その通りだと思います。しかし、このお話は外食業界のインナーの人からは言えないことなんですよね。自らが「ブラックではない」と主張しても、あまり信じてもらえない……。そこで私は、ある意味、外食業界の“外の人”である中田さんによる発信力を期待している。これは業界にとって大きな力になると思います。

中田:私は、外食業界はむしろ人を大事にしていると思います。もし売上が下がった際、製造業など、他の業界であれば人を切るという選択肢があるかもしれませんが、外食は人材を切ることの優先度は低い。外食は人と人とをつなぐ仕事。人を使い捨てできないんです。

佐藤:今の外食業界は人材不足がネックになっていますね。人がいないから新店が出せない、人がいないから閉店する、など、そういった深刻な状況が続いています。それに対する打開策は?

中田:人を大切にする業界であることを理解してもらい、多くの人にこの業界を選んでもらえるようにしたい。外国人労働者、正規雇用、女性や高齢者の活用など……

菊地:それらに加えて必要なのはテクノロジーですね。外食業界の人手不足は始まったばかりです。外食の人からするとテクノロジーとは、無機質なイメージで、なんとなく遠い世界のように思えます。ですが、これまでの歴史を見ても、今起きているデジタル革命は人に近いところで起きているんです。AIやIoTを使って仕事にテクノロジーを導入して、人は人にしかできない仕事に専念する環境を作っていきたい。

佐藤:労働集約型だったものが、テクノロジーで産業化につながるんですね。

菊地:産業化するには、社会に対して企業はどう貢献するかの視点が大事。外食は日本にとって大事な産業です。インバウンド含め、国内外に魅力を発信していく役割が必要とされています。外食産業をより社会的評価の高い存在にしていきたい。その点で中田さんに期待しています。

外食は農業も変える。目指すのは「農業のブロックチェーン化」

佐藤:「外食力」では、外食と農業の関係についても触れていましたね。外食には、農業も変える力があると。

中田:農業は天候をはじめ、不安定な要素を多々持ち合わせる産業。外食が農業を囲い込むことを是とはしませんが、基盤安定のためには大きな影響力を持っている。外食が安定的な需要を生み出せば、「計算が立つ農業」を実現できると考えています。

菊地:農業からすると外食に対して信頼が築けていないように思います。買い叩かれ、フェアが終わると関係が終わりというようなイメージの農家さんも多い。一方で、外食では農作物を“調理”という価値を高める手段を持っているのは大きな点です。

つまりこれは情報のミスマッチ。外食と農業は、大手がシェアの多くを独占するのではなく、産業の裾野が大変広く、中小が多いという点で似ている。そのため、産業間で個々の情報交換が非効率。そのミスマッチをどう解決するか……それはテクノロジー、AIを使って最適化する必要がある。中央集約ではなく、個々の需要と供給をマッチングさせ、いわば農業のブロックチェーン化みたいなものですかね。

中田:有機野菜や無農薬栽培といったものは、消費者からは一定のニーズがありつつも、農家からすれば手間がかかるうえ、本当に売れるのかわからないとなれば手を出しづらい。安定的に需要があるとわかれば安心して農家は作れますね。

菊地:近年ではSDGs(持続可能な開発目標)という言葉も出てきました。今、投資の世界では、サティスナブルなものに投資をするESG投資という動きが出てきているくらい、世の中で注目されているんです。売り手、買い手、社会のすべてにとってサティスナブルなことを目指そうという動きが盛ん。それこそ農業と外食が組めば、地域に貢献できるはずです。

日本のサービス料は安すぎる!

佐藤:さて、次のテーマは日本の賃金の低さについてご意見を聞きたいと思います。今の長引くデフレで外食は最も影響を受けている。大手チェーンが安売りに走り、競争が激化して疲弊するという負のスパイラルに陥っています。日本の構造的な問題ですね。ここからどう抜け出すべきと考えていますか?

中田:マクドナルドは世界で展開するハンバーガーチェーンですが、「マクドナルドのハンバーガーの値段が、その国の物価を表す」と言われています。日本のハンバーガーは100円と、世界から見てかなり安い。日本よりはるかに物価が低いはずの東南アジアよりも、です。なぜ日本がそんなに安いのか……?日本では土地代や材料、エネルギー代、決して安くはありません。そう考えると、消去法で削られているのは人件費しかない、という結論に行き着くんです。

そこで、課題になるのが、どうやってお客様の共感を得ることで値上げし、人件費に還元するか。そのためには、同業他社とも一緒に動いて行かないと続かない。社会的なアプローチが必要なんです。

これは簡単な問題ではなく、単に最低賃金を上げただけで解決はしません。そうすると韓国のように逆に失業者が増えてしまう現象が起こるのです。

アメリカではチップ文化、いわゆるサービス料がある。正直、アメリカの多くの飲食店ではサービスが良くないです。スタッフに笑顔はないし、仕事中もスタッフ同士でおしゃべりしていることも珍しくない……。ところが、ちょっとしたレストランに行くと、驚くほどサービスが良い。着席すると、スタッフが名乗りながらフレンドリーに挨拶をし、ことあるごとに「everything OK?」と聞いてくる。これらは全部チップがあるからの行動。彼らがホスピタリティを尽くすのは、すべてチップを期待しているからです。では、日本でこのようなチップ文化ができる?というと難しいと思います。

佐藤:ホテル業界であればサービス料は取れるのですが、現状の飲食業界では難しい。仮にどこかがサービス料を始めたとしても、必ず「うちはサービス料をいただきません」と打ち出す店が出てくる(笑)。

菊地:おっしゃるとおり。アメリカはチップをとる店と取らない店で明確に分かれています。日本の飲食店はすべてチップを取らない、いわばファストフード。それはなぜか?日本はサービスに対する価値意識が低いという根本的な背景があるからです。サービスという言葉が、サービス残業のように対価がないことの代名詞のように使われている。

バブルの頃は、価格の中にサービス料が見えないように入っていました。どうしても「サービスの対価をもらうのははしたない」という意識がある。デフレが長く続いた結果、モノの価格が低下することにつられ、サービスの対価もじわじわと縮減してしまったのではないかと思っています。

中田さんのおっしゃるように、業界全体で変わろうとすることが大事。何年か前、百貨店が定休日を作ったことが話題になりましたが、結局定着しなかった。それは他が追随しなかったからなんです。今、ここにきて飲食店でも定休日や年末年始休みを作る動きが始まっています。業界全体で「当たり前」にしていくことが大切ですね。

値上げには、価値を伝えて消費者意識を変えることから

中田:まずは消費者の意識を変えたい。「安いモノには何かある」ということをわかってほしい。これこそ私みたいな業界の外部の人がやるべきことだと思います。値段だけを見て判断するのではなく、価値に正当な対価を払わないと、飲食店と消費者のお互いが不幸になる。

佐藤:同時に飲食店も価値を客に伝える努力をしないといけませんね。

菊地:農業もそうですね。作った農作物の価値を伝えながら売ることが大事。それで得る利益が大きくなるわけですから。

今の飲食業は、製造業のように規模が大きくなるほど価値が増えるわけではなくなってきた。昔は規模を追えば利益も正比例していた。サービス産業は規模と利益は二次関数の関係。一定量、規模が大きくなると、マニュアル依存のサービスになってしまい、付加価値を伸ばすことが難しくなってくる。つまり、規模が小さい個人店や小さな農園でも、大きな付加価値を付けられる業界なんです。チェーンにはできないことに価値を見出せる。

佐藤:その点は今まさに意識され始めているところですね。これから浸透してくるはずです。私も「イートグッド」という本を書いて、「いいものを食べよう!」と提唱しました。大手チェーンにはできない価値あるものに気づいてほしいですね。

菊地:規模の不利益なんてなかった時代から、今まさに転換期にある。中田さんの発信力とともに、業界全体でも発信していかなくてはなりません。

気になる今後の活動は…?

佐藤:ところで、中田さん、このタイミングで本を出したのは??これから参院選もありますが……

中田:これまで外食は政治に対して大人し過ぎた。外食ビジネスは政治に対してなんらかの影響を及ぼす力を持っています。すなわち、外食産業を伸ばすことは日本の課題克服に繋がります。そのために、私はいかなる形でも外食をサポートしていきたい。

佐藤:ということは?政治活動の中で外食の業界のために汗をかく、それが国民のためになると活動しますか?

中田:考えて具体的な行動にしなきゃならないと考えていますよ(笑)。外食の可能性を広げて日本の課題を克服するプレイヤーとしての政治家は必要だと思っているので、アクションを考えなければと思っているところです。

菊地:外食の抱える課題について、インナーが言っても効力がない。アウターが発信することが大事。そういう意味で、中田さんの外食に対するポジティブな考え方や発信力は魅力的ですね。それが結果につながるのであれば、私なりに中田さんを応援しようと思います。

佐藤:どのようなかたちにせよ、お2人の今後の活躍を期待しています。本日はありがとうございました!

(取材=大関 愛美)

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