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特集

ミートフードEXPO2016 フードスタジアム presents スペシャルパネル
外食業界の未来を考える~大転換期を迎え、これから取り組むべき課題と行動~後編

2017年1月19日、池袋サンシャインシティ「ミートフードEXPO/居酒屋Japan2017」で開催された有料講座の様子を公開。
これからの外食マーケットはどう動くのか、そして外食業界はどこへ行こうとしているのか。大手外食チェーントップ4人をゲストに迎え、外食業界の抱える課題やポジティブな未来を考える豪華パネルディスカッション!(モデレーター/フードスタジアム編集長 佐藤こうぞう)

[ パネリスト ]
・菊地 唯夫氏(ロイヤルホールディングス会長、日本フードサービス協会会長)
・秋元 巳智雄氏(ワンダーテーブル代表取締役社長)
・清宮 俊之氏(力の源ホールディングス代表取締役社長)
・加治 幸夫氏(物語コーポレーション代表取締役)

[ コーディネーター ]
千葉哲幸氏(「月刊食堂」「飲食店経営」元編集長)
中村芳平氏(外食ジャーナリスト)


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質問④
「新しい成功モデルについて」
これからの外食企業のビジネスモデルのあり方。デフレ圧力で付加価値を訴求しにくい環境をどのように克服するか。また各社の「生産性向上」への取り組み

佐藤
では4番目のテーマに移ります。
やはり現代は、このままの事業モデルではやがて行き詰まっていくだろうという転換期にあると思われます。付加価値、そして生産性……。今後、外食はそうした戦いになっていくでしょうが、デフレのことがありますので、売値は上げにくい。この問題についてどう思うか、突っ込んで解決策をご提示いただければと思います。菊地さんからお願いします。

菊地 はい。これはまあ、なかなか単純な解決策はないでしょう。
なぜかというと、これだけ人口が減少して、なおかつこれだけデフレが続いている国というのは世界にも例がなくて、”あの国を参考にすればやっていける”というモデルは全くないわけです。我々自身が創り上げていかないといけない、というのが大前提だと思います。
一方で、中国、韓国、香港、シンガポールといったアジア諸国も、人口ピラミッドの形はもう末広がりではなくなっているんですね。ですから日本が少子高齢化の中でのサステナブルな産業モデルを作るっていうのは、すごく普遍的な価値があると思います。

P1190200_600じゃあ、どういう価値がありえるかというと、私は今までのチェーン理論を全然否定しているわけじゃないんですね。要は、チェーン理論に基づく多店舗化に親和性のある事業はこれまで通り継続してやっていけばいいと思います。
それには、例えば機械を導入することによって、多店舗化が効率的に”規模の不経済性”を持たない形で拡大していけることが必要です。
ただ、人口減少が進んでいく世の中になると、一方ではそれに相対する産業の在り方として、多店舗化を前提としない事業というのもありだと思います。
我々のグループでいえば、例えば『てんや』なんかはチェーン理論で拡大していけるけれども、『ロイヤルホスト』『シズラー』といったところは、敢えて多店舗化をしないという選択がありえます。
要するに、数が増えれば増えるほど付加価値はどんどん落ちるわけですよね。我々は「リッチモンドホテル」というグループを持っているんですけど、ここでは年2店舗しか出さないと決めているんですよ。それは、多店舗化をすればするほど落ちてしまう付加価値を落ちないようにコントロールしながら産業化を図っているわけです。

つまり、それぞれのブランドの在り方をもう一度整理しながら、なおかつ付加価値を維持しながら、成長していくという考え方を、コーポレートの中に盛り込んでいくということですね。

佐藤 有難うございます。さすが、元銀行マンで『ロイヤルホスト』を立て直された菊地さんですね。では加治さんはいかがでしょうか。

P1190184_600加治 はい、私どもは愛知県豊橋市というところで1949年に創業して今年で68年目になるんですが、最初は職人さんをしっかり使った和食の店を一軒だけやっていまして、今現在はチェーン展開で直営200店舗/FC180店舗という状況です。
チェーン店というのは、まあ広げていく前提にあるわけだから、街のインフラ的存在になるという使命があるんですね。どんどん全国展開した際にどれだけ地域の皆さんに喜んでもらい、必要とされることができるか。もしくは、そこに行かないと得られないような体験があるか。この二極を、高付加価値型飲食店として両方とも持ち合わせることが必要だと思うんですね。
うちでは『焼肉きんぐ』という焼き肉食べ放題の店をずっと多店舗展開していますが、一昨年4月、赤坂に『肉源』という新業態を出しました。
今後も試行錯誤して新しい焼き肉の在り方を追求しながら、チェーン展開の方もやりながら、模索してやっていこうと思っております。

佐藤 加治さんの所では、豊橋というローカルから、ロードサイドを中心に展開してきて、一昨年は一転、都心型の新業態『熟成焼肉 肉源』をオープンされたんですよね。会社の展開では、途中からFCに舵を切りましたが、これはどういった企業文化からなのでしょうか。

加治 FCの目的はひとつで、”まともになるため”ということです。
というのは、外食産業というのは往々にして、規模が大きくなるにつれ下から建設的な意見とか本質的な改善策が出にくくなってくる。本社が上から頭ごなしに「やれ!」と通達し、それに対して現場の人間は「こんなこと意味ないのにな」と思いながらヒーヒーやっている、みたいなことになりがちです。
でもフランチャイズの場合、そうはいかないんですね。オーナーの皆さんは生活が懸かってますから、必要性が見い出せない取り組みとか、コスト増によって簡単に原価を2%上げるとかいうことは許されない。つまり企業努力のスピード感が変わってくるんですね。
上場もそうだったんですが、そういった意味でまともになって清く正しい飲食文化を作っていくということがFCの目的です。

佐藤 なるほど。それでは秋元さん、新しい成功モデル、付加価値、生産性についていかがでしょうか。

P1190087_600秋元 はい。”失われた20年”と呼ばれたバブル崩壊から2000年代初頭までは、ファーストフードの業態も、牛丼の業態もデフレの象徴でした。でも今は世の中が変わって、コストの問題もあるので、あそこまで安くは打ち出せないんですよね。
ですから、デフレの限界を抱えているというのが、今の外食経営の状況なんじゃないかと思っています。
当社は、そこの路線では戦えないんです。むしろ戦いたくない、という思いがあるので、安さではなくて、バリューのある店を打ち出していくんだという風に思っています。
例えば、我々が展開している『ロウリーズプライムリブ』の客単価は11000円です。しかし、アメリカから来ているステーキハウスブランドの客単価は、平均すると15000円~18000円なんですよ。ですので、会計をした際に、”思ったより安かったな”と感じてもらう。それが大事なんじゃないかなと。
新しい成功モデルというのは、どんな客単価の業態であっても、他に負けないバリューを持てるようなコンセプトとか商品というものが一番大事だと思います。

佐藤 バリューファーストですね。では清宮さんいかがでしょうか。

P1190319_600清宮 はい、必ずしも成功モデルというわけではないんですが、当社では国内事業におきまして今年から”地域コミュニティに入っていく”ということを改めて掲げていきたいと思っております。
現在、国内では「のれん分け」という制度が充実してきていまして、一風堂でいうと30店舗弱がのれん分け店舗になり、約20名の経営者が生まれてきている状況です。
これをゆくゆくは100人に推進していこうと思っているんですけども、そうした全国ののれん分け店舗の店長には、地域と関わる取り組みを年間必ず3つは実行してもらっています。
必ずやるのがワークショップで、ここ数年は厨房車を使って地元の小学校でラーメン作りを体験してもらっています。
これは費用も頂かないですし結構大変なんですが、2003年からずっと続けていまして、実は今年、このワークショップの参加者がやっと1人新入社員として入社することになりました。これまでの活動が、ようやく芽が出つつあるなという風に感じています。
あと、大分県竹田市の方で試験的に展開している農業生産法人「くしふるの大地」のような農業の取り組みも今後力を入れていきます。全国各地域で10ヘクタールくらい展開できるような仕組みを作っていきたいなと思っております。

佐藤 素晴らしい取り組みですね。有難うございます。

P1190311_600中村 社内にまつわる問題でいうと、加治さんの所では現在8か国から外国人社員を登用して、現状の8%をゆくゆくは20%まで上げようとしているわけですよね。
日本語の問題を含めて、今後の教育をどういう風にしていくかという課題もあると思います。
先ほど清宮さんがおっしゃったように、「7つの習慣」、これはね、いろんな意味で使えると思います。清宮さんのところは、非常にユニークな取り組みをやっているんですよね。ひとつひとつはまだ完全な形になっていないし、カオス状態にあるんだけど、これがまとまってきたらすごいぞというようなね。
まあ、清宮さん自体もそういう感じのところがある人なんだけども(笑)。

佐藤 清宮さんは”一か八か”ということを果敢にやってますよね。

中村 そうそう。だからね、加治さんのところも、他社さんも、清宮さんと組めばいいと思うんですよね。人材育成部門だけ切り離して、何社かでコラボして。
そうじゃないと、僕は今後世界の展開スピードに間に合わないとおもうんですよね。

加治 僕は一風堂さんの「7つの習慣」の取り組みを新聞で読んで、非常に興味を持っていますよ。

秋元 僕も研修を受けに行きました。

千葉 一風堂さんに関しては、パンダグループ(アメリカの中華料理チェーン「パンダエキスプレス」を展開するパンダレストラングループ)と組んだことが大きいのかなと思っていますがどうですか?

清宮 そうですね。パンダレストラングループは、グレートカンパニーに成長していく過程で「7つの習慣」を非常にうまく組み込んでいましたので、その影響はあります。

佐藤 いずれにしても一風堂さんの取り組みは、企業の魅力をあげて「働きたい!」という人を受け入れていくということですね。では最後です。

質問⑤
「新産業革命」(IoT、ロボット、AI、無人自動車など)と外食産業の未来について。こういった技術革新をどう取り入れるか、また、どう変わるか。外食産業の未来の姿についてあるべきイノベーションとは。

佐藤 菊地さんからお願いします。

P1190204_600菊地 はい、この新産業革命、すなわち第4次産業革命というのは、外食にとってもいろいろな示唆を与えてくれると思っています。
今回の産業革命というのは、ものを安く作れるとか大量生産ができるとかではなくて、AI(人工知能)だったりIoT(モノのインターネット)によっていろんなデータを分析して、それに最適な答えを出すというものです。
今までは、例えばCMを打つためには1億のお金がかかる。そうすると、10店舗しかない企業ではそんな金額は投資できなかった。つまり規模が大きい方がより販促効果が得られやすかったわけです。
ところが、この新しい産業革命が起こると、規模が必ずしも効果に比例しないということがもたらされます。つまり、小さくて多様性のある企業においてもAIだったりIoTを取り入れられる時代になってくるというのが、大きなポイントになるかと思います。

それから、今後の人口減少と合わせて考えれば、今後は当然人と機械がどんどん置き換えられていくと思うんです。
でも、先ほど秋元さんがおっしゃったように、外食産業というのは、”人間”がすごく大事な産業です。この先世の中がどんどん無人化してくる分、ヒューマンタッチなものが求められる時代になっていくんじゃないか。

この第4次産業革命が及ぼす影響というものは、直接的にやってくるインパクトと、そして間接的に求められてくるもの。この2つの状況から考えていく必要があるんじゃないかなという風に思います。

佐藤 これから5年、10年、外食を取り巻く状況が大きく変わっていく。それをどう先取りして、アイデアを打ち出していくかですね。

菊地 そうですね。キーワードは”イートグッド”じゃないでしょうか(笑)

P1190313_600佐藤 ありがとうございます。菊地さんはここまでで会場を後にされます。菊地さんは去年、日本フードサービス協会の会長に就任され、業界を大きく変えていくキーマンとなる方です。本日は大変な激務のなか、有難うございました。(会場拍手)
続いて加治さんお願いします。

加治 これ、実は一番自信のないテーマなんです(笑)。
投資額の大きさから言っても、現状ではAIやIoTに関心を示しつつ、効率化、生産性をあげるべく少しづつ取り組んでいくということだと思います。
ある本で、AIを超えるものは何かというと、”想像力”、”コミュニケーション”だということを読みました。そこは本当に大事で、取って代われるものはどんどん変わっていく。しなしながら外食産業は、それに負けないものを持ち、注力していくということが大事かなと思います。

佐藤 御社はタッチパネルオペレーションがかなり進んでいるのではないでしょうか?

加治 今度、タッチパネルに各店長の顔がバーンと出て、おすすめ商品などを伝えるシステムになりますね。

佐藤 食材の生産者情報を伝えるのにもよさそうですね。
秋元さんはいかがでしょうか。

P1190316_600秋元 例えばきれいな女性型ロボットの開発が革新的に進んで、究極的には現場に人がいなくても回るようになる可能性もあるんだとは思いますが、うちではそういう部分には興味がないんです。
完全ハイテク路線でITを駆使するのではなくて、例えば「2回目の来店なのに名前を憶えていてくれて嬉しい」と感じてもらうようなサービスを支えるものとして取り入れたい。つまりハイタッチなソサエティというのが求められていると思うし、ITの技術に支えられながら、より高度なおもてなしをするというのが、次の外食産業のテーマなのではないでしょうか。

佐藤 予約システムなんかはどうですか。

秋元 うちではいま試験的に4社くらいの予約システムを使ってみています。
例えば『ローリーズ(・ザ・プライムリブ)』だと、一日に予約の電話が大体500軒くらい入るんですね。ですから予約システムとPOSがうまく連動するとか、電話と連動するとかいったサービスが開発されることによって、こういった人件費の負担を減らすようなシステムに移行できるといいなと思っています。

佐藤 ありがとうございます。清宮さんはいかがですか。

清宮 IT化、ロボット化というところにつきましては、どこを見て、どう考えるかということがすごく大事だと思います。
間違えるととんでもない額の投資が無になってしまいますので、企業としてブランドデザイン等々を作っていくうえで、しっかり考えなくてはいけない。
弊社の基準としては便利か/便利じゃないかはもちろん、かっこいいか/かっこよくないか、そして面白いか/面白くないかという3つの切り口で考えて判断していくという風に思っています。
例えばうちでいうと、ラーメンのスープは非常に時間をかけて丁寧に製造しているんですが、それを店に配送する手段一つとっても、「無菌充填機」というのを使うと、常温で一年間保存できたりとかするわけです。2億円くらいするんですが。
そういった、より安心・安全をお客様に届けられる機械化、IT化というものはどんどん検討しなきゃいけないなと思いつつ、先ほど秋元社長と加治社長がおっしゃったように、お店で使う技術をどこに向けるかというのは本当に難しい。
今はグーグルさんとご縁がありまして、一緒に新しい仕組みを作っていけたらいいなぁと思っております。

佐藤 千葉さんどうぞ。

P1190303_600千葉 AIの世界で最近象徴的だった事件というのは、棋士が対局中に将棋ソフトを参照したという疑いの責任を取って、日本将棋連盟の会長が辞任したというニュースです。
つまり、「スマホやパソコンを会場に持ってきてはいけない」というようなルールが後手に回っていた。これからAI、IoTの時代が到来する際には、私達人間の働く場所がなくなるというように疑心暗鬼になるのではなくて、あらかじめお互いの役割を整理しておくことが重要になってくるのではないでしょうか。

中村 生産性の向上ということでいうと、データ的に見ても、日本の外食産業、サービス業というのは生産性がむちゃくちゃ低いんですよね。アメリカなんかと比べると半分以下、下手をすると三分の一くらいしかないわけです。
ここに本気で取り組まないと、日本の外食産業は世界で戦えないと思うんですよね。
例えばサイゼリヤなんかも、厨房関係の投資をあそこまで進めた結果あれだけ手間のかかったイタリアンをあの価格で出せるわけですから、非常に重要なことだと思います。

佐藤 有難うございます。
それぞれの問題について、なかなか明快な解決策や結論は出ませんね。
ただ、外食の未来は、それぞれの飲食企業のオーナーが、ほかと違うことを見出して個性化を図っていくということが重要で、そこに活路があると思います。
皆さん、これからもそれぞれのジャンルで活躍されることを期待しております。今日はありがとうございました。(会場拍手)

(構成:中村結)

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