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特集

【新連載】時をつなぐレストランシェフ 1st chef 石井真介


苦悩を経た熱きシェフが、厨房の壁を破り外の世界へ
すべての人とのつながりをそのひと皿に込めて

シェフ


白いクロスが敷かれたテーブルに数々のシルバーが並び、濃厚なソースの味わいに舌鼓を打つ。そういった20年、30年前のフランス料理から、現在のフランス料理は大きく変化している。今の日本のフランス料理シーンを担うのは、30〜40代を中心としたシェフたち。彼らは、先代から学んだものを受け継ぎつつ、新しいことにチャレンジし、次の世代に伝えようとしている。フランス料理の新たな時代を作る熱きシェフたちの姿とは。「時をつなぐレストランシェフ」1人目は、フードスタジアム ヘッドラインでも紹介した「シンシア」石井真介シェフ。その思いを伺った。
 

 

閉ざされた厨房から外へ出て
新しいチャレンジを

 

外観予備

人気フランス料理店「バカール」の閉店から1年の時を経て、新たに生まれた「シンシア」。大きな注目を集めた今年4月のオープンから4カ月余りがたった今、予約困難な銘店としてますます広く知られる存在となっている。「シンシア」のオープンまでに数々の苦悩を経験し、食への向き合い方を深く見つめ直したというオーナーシェフの石井真介氏。食を通じて未来について考えるきっかけをつくることを目的とした「いただきます・プロジェクト」のメンバーでもある石井シェフは、この度の取材時、宮城県石巻市で行われた地域復興イベント「Reborn-Art Festival(リボーンアート フェスティバル)」の野外レストラン企画「Reborn-Art DINING(リボーンアート ダイニング)」にシェフの1人として参加したばかりであった。夏季休業を充ててのボランティア参加で、日本のトップシェフとして名を馳せる仲間たちや地元スタッフとともに汗を流し駆け回った3日間。ライブ会場横でランチ600人、ディナー300人のお客様を迎えて繰り広げられた食のひとときは、まさに壮観であったという。

「これからのフランス料理の料理人は、昔のように店の奥の厨房にこもって料理を作っているだけではダメなのです。もっと外へ出て、新しいことにチャレンジして、食を世の中のために役立て、変えていかなければ」と語る石井シェフ。9月には、アグー豚の生産地である沖縄県の今帰仁村(なきじんそん)と「いただきます・プロジェクト」が共催する、 “食と農の遺産”をテーマにしたイベントにも参加する予定だ。在来種本来の味を守ることの大切さ、良い食材が適正な価格で評価されることの大切さを、自身の料理を通して訴えるという。食に関わる人間として、食材を知り・尊重し・無駄にしない姿勢を広く伝えていきたいという考えがこれらの活動の源となっている。

石井シェフの精神は「シンシア」の随所にも現れている。店名の「シンシア」は、“噓偽りのない” “真摯な” “率直な”などの意味を持つ言葉。店のドアを開けるとまずキッチンとシェフたちの姿が目に入り、オープンなキッチンと客席が一体となった店内に歩を進めれば、まるで石井シェフの自宅に招かれたかのような感覚にも襲われる。厨房が厚い壁の向こう側に閉ざされ、調理の様子を見ることもないかつてのフランス料理店のイメージからすると、シェフの顔が近くに見え、すべてがオープンにされた「シンシア」の姿に驚かされることになる。近年オープンキッチンを採用しているフランス料理店は少なくないが、その中でもひと際「シンシア」では親しさが感じられるだろう。選びに選び抜いた物件、こだわりにこだわった内装デザイン、石井シェフやスタッフたち全員の「お客様と触れ合い、お客様を楽しませよう」という思いがひとつになって、席に着く私たちを包み込む。

 

お客様と直接顔を合わせ
伝えることが大切

外観

食事の時間が始まると、石井シェフはキッチンと客席の間を忙しく動き回る。自ら食材や料理を見せて回り、「本日は〇〇県の○○さんが育ててくれた○○を使っています」「このようにして調理しています」と直接お客様に伝えていく。ずっとキッチンで料理だけをしているのに比べれば、大変な労力である。しかし石井シェフは、自分の料理を食べに来てくださるお客様に対して自分が出ていかないのはおかしい、自らも料理を運びお客様と対面することこそが「もてなすということ」だと考える。また、食材をお客様に見せることにも重要な意味がある。“いただきます”とは本来、“命”をいただくということ。魚は切り身で海を泳いでいるわけではないし、肉は大切に育てられ生きていた牛や豚、鶏である。野菜も農家の方々が自然と闘いながら実らせてくれるもの。客席で牛を丸々一頭見せることはできなくても、料理人として、食材は“命”であるということを伝え、捨てずに大事にいただくことの大切さを理解してほしいと考えている。生産者、料理人、お客様。食を通じたすべての人の“繋がり”と、そこから感じられる食の尊さが、「シンシア」の料理のテーマにもなっている。

具体的なメニューの内容は、季節感を念頭に組み立てていく。日本はフランスと同じく四季があり、さまざまな食材の旬がある。その時に最もおいしい時期を迎える食材を組み合わせてレシピを決めていく。メニューを考えるのは、休日にカフェなどで、好きな歴史の本を読みながら。リラックスしている時間のほうが良いアイディアが浮かぶそうだ。オープン当初は「menu SP」コース1本で、「バカール」時代の人気料理を意識した内容にしていた。現在は「menu BP」と「menu SP」の2種類のコースがあり、「バカール」時代の定番に近い料理を食べたいお客様は「menu BP(バカールっぽいの略)」、新しい料理を食べたいお客様は「menu SP(シンシアっぽいの略)」を選ぶことができる。さらに、一度来店したお客様は顧客データを管理し、何度目の来店か、どんな好みかなどによってコースの構成をカスタムしている。現在お客様の半分が初来店で、半分がリピーター。そのお客様ごとにメニューを変えているのも「シンシア」のもてなし方だ。

1カ月ごと、季節ごとなどで全体のメニューを変えるのではなく、お客様ごとにメニューを変えるとなると、その内容は複雑になる。しかし、メニューを考えるのは一番大事で力を入れるべき仕事だという石井シェフ。お客様により楽しんでもらえるように、食材のアレンジのし方などを工夫しながら、柔軟なメニュー体制を整えている。さらに、日本らしさもテーマのひとつ。かつてのフランス料理は、フランス産の食材を輸入し、“フランスのフランス料理”を再現するものだった。しかし日本は、フランスとは風土も違い食材も違い食べる人も違う。フランスの真似をしても“フランスのフランス料理”には勝てないのだ。現在は日本産の洋食材や日本ならではの素晴らしい食材が豊富に手に入るようになったこともあり、日本の良さを活かした“日本のフランス料理”を表現しようという考え方が今の世代のシェフたちの間で主流となりつつある。また、石井シェフは、食器やカトラリーなども日本の職人によるものを積極的に取り入れている。例えばテーブルナイフは、越前の「龍泉刃物」を訪問してオーダーしたもの。テーブルナイフといえば「ラギオール」が良いとされているが、日本にも素晴らしいテーブルナイフを作る職人がいることを知り、値は張っても「お客様にこれで食べてほしい」と購入を決めたそうだ。

 

次の世代を育て、伝えることも
私たちの責任のひとつ

内観

「どのレストランも、人材が見つからない、ということで悩んでいます」と石井シェフ。シェフが集まる席ではいつも、人材不足を嘆く声が聞かれるという。人材が不足しているのであれば、自分たちが育てなければならないというのが石井シェフの考えだ。料理人は、労働時間が長く、体力的負担も大きく、収入も低いところから始まる厳しい仕事。次の世代の若者たちは、ただ厳しくするだけではついてこれなくなり辞めてしまう。石井シェフはそんな若者たちに、厳しさの中にも料理人という仕事に魅力を感じさせられるよう努力をしている。「私は、物を生み出すことが好きです。苦労するけれど、自分でおいしいものを作ることができたときはとても嬉しいのです。その喜びを若いスタッフたちにも経験させてあげたい」。ただひたすら仕込みをさせられて、それがどんな料理になるのかも知らないまま、工場のように働く。そうではなくて、自分たちが携わったものがどういう料理になってお客様にどう運ばれていくのか、そのすべてを体験させながら若手を育てていくのが石井シェフのやり方なのだ。

「シンシア」では石井シェフだけではなく、若手のスタッフたちも料理を客席へ運び説明をする。自分がどんな料理を作っているのか理解していなければお客様に説明することはできない。若手にサービスを経験させ、お客様と接する機会を持たせることはとても重要だという。「バカール」時代はすべての料理をひとりで黙々と作っていた石井シェフ。自分の世界観を崩さずに若手たちとともに仕事を進めるのは難しい点も多いが、次の世代を育てるために石井シェフ自身もチャレンジをしているのだ。また、人材育成のほかにも、経営者としての苦労もある。「シンシア」を立ち上げる際は出資の申し出もあったが、出資は受けずに資金を集めた。すべて自分の責任で、自分が思うように店を運営したいと考えたためだ。現在も「シンシア」の運営のほかに、別のレストランの監修なども行っている。「シンシア」の毎日のメニューを考え、運営し、金銭面も考え、あらゆる仕事をしなければならない。それでも石井シェフは苦には感じないという。「シンシア」は石井シェフひとりの力ではなく、施工会社やデザイナー、職人、その他多くの人の力で生まれたもの。そのすべての人への感謝が石井シェフの原動力となっている。

「自分にできる限りのことをやるのが、師匠であるシェフたち、私を支えてくれるすべての人たち、そして食材への恩返しだと思っています。私や仲間たちがいるこのフランス料理の世界を、もっと良くしていきたい」。以前から「次につなげることが一番の願いだ」と語っていた石井シェフ。師匠たちから教わった料理や料理人としての志を伝えられるような、次の世代に憧れられるシェフになることをめざしている。フランス料理の魅力がもっと多くの人に伝わるように。シェフという仕事が若者の憧れの職業になるように。食の世界を良くしていくために、石井シェフはこれからも新しいことにチャレンジしていきたいという。「新しいことをやるのは勇気がいりますが、刺激にもなります。私の周りのシェフたちも、やる人はやっている。食を変えるために、私もどんどん挑戦していきたいですね」。

 

<シェフのひと皿>

 

料理

「バカール」からの人気メニュー、「有機野菜と特製バーニャカウダ」をより新しい料理としてアレンジしたもの。野菜を中心としつつ、海のものである手長海老と合わせて召し上がっていただく。甘くないカカオのスポンジのパウダーで土を表現している。蟹味噌のバーニャカウダは野菜をつけて食べても、ソースとしてかけてもよい。

 

スクリーンショット 2016-08-30 12.16.54■著者プロフィール 河﨑志乃
山口県生まれ。女性ファッション誌での各種情報執筆及びフードコーディネーターとしての活動を行う。レストランのコンサルティング及び販促物・公式WEBサイトの制作、ホテルレシピ本のライティング、レストランの店舗名考案、一般販売用菓子・コーヒー等のネーミングほか多数。2016年より独立しtabetas+を設立。フードコーディネーター・ライターとして活動を続けながら、料理教室を開催するなど多方面で活躍中。

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