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【新・外食ウォーズ】「いきなり!ステーキ」年内国内30店舗展開の“意外なカベ”


140706_gaisyoku_wars01.jpg"ペッパーフードサービス(本社・東京都墨田区。以下ペッパーフード)が、立食い&量り売り方式の「いきなり!ステーキ」の年内30店舗展開に向け、出店ペースを上げている。6月に第4号店の渋谷桜丘店、7月には第5号店の神田南口店を開店、第6号店の六本木店を開店する。どちらも「駅前の立食い日本蕎麦店」の撤退物件である。優勝劣敗を象徴する出来事で、外食ウォーズの厳しい現実を垣間見せる。ペッパーフード社長の一瀬邦夫氏(72)はこういう。
「『いきなり!ステーキ』はステーキを立食いで食べる必然性がないから一過性のブームで終わるなどと言う方もいらっしゃいますが、異論を唱えるのは叩かれていますが、ケチをつけるのは同業者ばかり。『いきなり!ステーキ』が一過性のブームでないことは、全店で女性の来店比率が30~40%と非常に高いことで証明されています。女性が2~3人のグループでやって来てステーキをつまみにワインやビールを楽しむのが普通の光景です。『いきなり!ステーキ』は『お腹一杯ステーキを食べたい』といった女性、『肉食系女子』の潜在需要を創造したところに大ヒットの要因があったと思います。私は『いきなり!ステーキ』はステーキを提供する新業態として、定着してゆくと見ています」
一瀬氏は山王ホテル(閉鎖)のコックとして9年間務め「炭焼キッチン くに」業態で独立開業した。その後アイデアマンの一瀬氏は電磁調理器と特殊鉄皿の2つの特許製品を開発、コックレス化を実現。主力の「ペッパーランチ」業態で急成長してきた。だが09年夏には食中毒事件から業績を悪化させ、監査法人から「事業継続への疑義」(ゴーイング・コンサーン)を注記され、経営危機に直面した。けれども一瀬氏は「海外事業の好調」を支えに資金を手当てし、11年12月決算で黒字を実現、12年2月に注記を解消した。一瀬氏は「ペッパーランチの大復活」を掲げ、大逆襲に打って出た。
12年9月には上野公園前の大型商業施設に初期投資1億円をかけて、次世代型店舗「ペッパーランチダイナーUENO3153店」を開店した。13年には新業態「牛たん仙台なとり」を開店、ヒットさせた。13年7月には長崎県のハウステンボス内にペッパーランチダイナーの3号店を出店した。この時、ハウステンボス社長の澤田秀雄氏(エイチ・アイ・エス会長)と業務提携した。澤田氏は中小企業のアジア進出を支援するアジア経営者連合会の理事長も務めており、13年9月に第1回の「アジア経営者ビジネスサミット」(於ザ・プリンスパークタワー東京)を開催した。この際澤田氏は「シニアからのチャレンジ」と題して、一瀬氏と「俺の株式会社」社長の坂本孝氏を対談形式で講演させた。坂本氏は立食スタイルの「俺のイタリアン」など多業態を銀座など一流立地に展開、原価率の高い料理を格安で提供することで「俺の」シリーズの一大ブームを起こした。
この対談をきっかけに、一瀬氏は以前から構想していた立ち食いステーキ業態の成功を確信した。そもそもこの業態の誕生は「炭焼ステーキ くに」でオーダーカットで提供して人気のあったオーストラリア産リブロステーキ(1g 10円)を半額にしたらどうなるか、どうしたら半額で提供できるのか。追求した結果が立ち食いであり、メニューの徹底的な絞り込みであった。そして「ステーキは前菜とか抜きで“いきなり”食べるのが一番美味しいんだ」との一瀬氏の思いを“いきなり!ステーキ”という店名に込めた。ただし、ステーキの品質には徹底してこだわった。プロのコックが注文を受けてから肉の塊をカットして炭火で焼き上げる。本格的なステーキ1g 5円、300gで1500円である。一瀬氏は20年前に「多くの人々に、美味しいステーキを安く食べてもらいたい」との思いでコックレスの「ペッパーランチ」を開発した。その進化型として対極にある立食い&量り売りの「いきなり!ステーキ」が誕生したのである。
140706_gaisyoku_wars03.jpgこうして13年12月に「いきなり!ステーキ」第1号店の銀座4丁目店を開店した。店舗面積20坪、家賃150万円だった。
「初めは40席の立食で滞在時間1時間、ステーキをつまみにビール、ワインなどを2~3杯。客単価2500~3000円の“ステーキ居酒屋”のコンセプトでした。ところがナイフとフォークを使うのでスタンド席は30人が限界。お客様はあまりビールなどを飲まず直ぐに食事をするので客単価は約2000円、滞在時間は30分程度。このため1時間当たり60人の入店(ランチ・ディナーとも)が可能になった。開店後連日行列ができる人気で1日平均400~500人が来店、日商が約100万円、月商が2500~3000万円を実現、これが毎月継続しているのです。ある程度売れると思っていましたが、これほど売れるとは思わなかった」(一瀬氏)
140706_gaisyoku_wars02.jpg 一瀬氏は今年1月、第2号店の銀座6丁目店をオープンした。「いきなり!ステーキ」は「立食い&量り売り」のこれまでに類例のない「ステーキの新業態」である。そのユニークさがメディアに受けて新聞・雑誌に始まり、テレビ番組にも40回以上取り上げられた。
銀座4丁目店、銀座6丁目店とも連日行列のできる人気で、「いきなり!ステーキ」フィーバーが出現した。一瀬氏はiPhone、iPadを使いこなす。両店内にカメラを設置、それをiPadにつないでリアルタイムで店内の込み具合や客層が分かるようにしてある。一瀬氏はいつでもどこでもiPadで店内の様子を見ながら業態の行く末を慎重に見極めようとしていた。一瀬氏は今年4月1日、本社近くの都営浅草線・本所吾妻橋駅近くに研修店も兼ねて「吾妻橋店」を開店した。本所吾妻橋駅は1日の乗降客1万7500人前後。浅草線内で2番目に乗降客が少ない駅だ。そんな2流立地で店舗面積が13.5坪、26立ち席でオープンした。店が狭いためカット場は設けず、調理場でカットして、カットした肉を席で客に見せる形をとった。ところがこの吾妻橋店も開店以来行列が続き、4月度で月商1525万円をたたきだした。ちなみに、銀座4丁目店の4月度の月商は2945万円だった。一瀬氏はこの吾妻橋店の成功を見て多店舗化に確信を持った。4月30日、墨田リバーサイドホールに関係者200人を集め「いきなり!ステーキ 年内30店出店説明会」を開催。プロジェクトを立ち上げた。
「『いきなり!ステーキ』は1店舗で月商平均2000~3000万円。30店舗展開すると売上高70億円の新しい会社ができるような感じです。店長候補100名募集、リタイアした高年齢コック経験者の採用、キャスト(アルバイト)の皆さんの募集でもボーナス制度、昇給制度、オープニング時給制度、有給休暇制度などを導入、万全を図っています」(一瀬氏)
一瀬氏を今一番悩ませているのはフランチャイズチェーン(FC)加盟者が決まらないことだ。「いきなり!ステーキ」は標準店舗 20坪(66m2)、30立ち席を想定している。
損益分岐点は1200万円以上と非常に高い。普通の飲食店で月商700~800万円売れば盛業店なのに、「いきなり!ステーキ」ではそれは単なる通過点に過ぎない。FC加盟希望者は月商2000~3000万円売るビジネスモデルが現実的でなく、尻込みしてしまうようだ。これが“意外なカベ”だ。ちなみに加盟条件は加盟金500万円、保証金(食材保証)500万円、ロイヤリティ5%などと好条件である。「いきなり!ステーキ」は「ペッパーランチ」「ステーキ くに」の2つの業態があったからできたことで参入障壁は案外高く、第1号店の銀座4丁目店開業から7ヵ月経つのに追随者はまだ一つも現れていないといえる。
一瀬氏はこう締めくくった
「年内30店舗展開、来年は50店舗展開したい。店舗は近い将来20坪全立ち席から、30坪にしてテーブル席を設置しようかと考えています」

〈新・外食ウォーズ〉
外食ジャーナリスト 中村芳平

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