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コラム

「ハイクオリティ大衆酒場」が来る!

私がずっと追い続けてきた「ネオ大衆酒場」業態。ますます増えてきているが、ここにきて、ハイカジ(ハイクオリティカジュアル=価格以上の品質提供)化の波がネオ大衆酒場マーケットにも押し寄せてきた。一方、老舗大衆酒場の多店舗化の動きも出てきた。2015年は「ハイクオリティ大衆酒場」がブレイクするかもしれない。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


アベノミクス効果で「景気が戻った」という雰囲気が沸き上がり、高単価マーケットが活性化している半面、「円安や消費税アップで庶民の生活は相変わらず厳しい」とばかり、飲み代を切り詰めて通う「せんべろ系大衆酒場」が賑わっている。せんべろとは、「千円でべろべろに酔える」という意味。実際には客単価2000円台前半までの大衆酒場業態を指す。私は、急成長している「鳥貴族」「串カツ田中」はそんな大衆酒場人気のなかで登場してきた新しいせんべろ系の「ネオ大衆酒場」と捉えてきた。常連さんの席まで決まっているという敷居の高い老舗大衆酒場と違い、若い人でも女性同士でも、ファミリーでも入れる気軽さと開放感。居酒屋のサービスと料理のレベルをキープしながら、値段は居酒屋以下という価値観がその人気を支えている。そんな「ネオ大衆酒場」がこれからはハイクオリティ化してくるのは間違いない。オリジナリティ性を高め、飲食店の原点としてのクオリティを強化。安全な食材、惜しまぬ手間と手作り感、心地良い環境など、総合的なホスピタリティ力を持った「ハイクオリティ大衆酒場」の登場である。

東急目黒線武蔵小山駅で産声を上げたせんべろ系大衆酒場「晩杯屋」はそのリード役になるだろう。このほど中目黒に4号店をオープン。オーナー金子源氏の“安く、気軽に財布を気にせず呑んで”のコンセプトを実践するため、1号店の店長の土肥斗城也氏は赤羽の大衆酒場の名店「立ち飲み いこい」で修行したという。驚くほどお得で新鮮さと人気の鮮魚をはじめ、どれも手間をかけ料理はコストパフォーマンスに優れ、大衆酒場を超えると評判だ。老舗のクオリティ、マインドをブラッシュアップした安いだけの大衆酒場ではない。私も関係者にヒアリングしたところ、「10店舗展開を目指している」という。おそらく「四文屋」がベンチマークなのだろう。その「四文屋」はなんと神戸三ノ宮に進出、三ノ宮でドミナント展開を目指すという。

ハイクオリティ大衆酒場といえば、「秋元屋」出身者の「ひなた」「君想う暮らし」のグループにも注目が集まる。若手経営者たちのベンチマーク度はすさまじい。中目黒には五反田の「もつ焼きばん」もオープン。生レモンサワー発祥の店だ。もともと中目黒のガード下に常連が通う店があったが再開発で退店したのが2004年のこと。復活オープンなだけに、話題性も抜群。新参者の「晩杯屋」と復帰した「ばん」との“中目黒戦争”も要注目だ。五反田東口サイドにオープンしたばかりの「大衆食堂ピン」。店が立地するのは、風俗店が建ち並ぶ妖しい雰囲気の通りを抜けた飲食店やオフィス、マンションが混在するボーダレスエリア。そんな場所ながら日々、賑わいを見せている同店は、西口サイドの繁盛店「大衆酒場ping」の姉妹店だ。透明なビニールカーテンのファサードがいかにも大衆酒場らしさを醸しているが、店内は古木や土壁風のナチュラルテイストを活かした環境でおしゃれな雰囲気だ。1号店も同じようなこじゃれた環境で従来の大衆酒場業態のイメージを覆すメニューはハムカツ、煮込みといった古典的ラインをしっかりと押さえながらも、揚げ物にはキャベツが付き、パクチーサラダと野菜もたっぷりでセンスの良さを見せる。

西荻窪駅南、駅前商店街にオープンした「大衆魚酒場 枡盛次郎」。1フロア10坪前後の3層建ての店のファサードは立ち飲みのような開放感を見せる。ちょうちんも下がる1階はキッチン前のカウンターのみ。2階はテーブル席、3階は座敷、屋上は夏期にはビアガーデンで構成されるが、フロアが上がるごと、日本酒の種類も価格も上がるユニークなシステムだ。八王子長寿庵、橋本の月夜のこころなど運営するグループの若き兄弟が仕切る。吉祥寺にオープンしたばかりの「火弖ル(ホテル)吉祥寺本店」は日本酒界では有名な「カイ燗」の2号店。ビール•清酒と書かれた白に黒字の行灯が目につく店は、大衆酒場好きな小倉拓也氏が満を持してオープンさせたもので、古典大衆酒場を完全にオマージュしている。コの字カウンターはもとより、メニュー形態などフェイスは“THE大衆酒場”。しかし食材を厳選し丁寧に作られる料理、店主がつける燗のクオリティは大衆酒場を遥かに超えるものだ。バブルっ気を少し感じさせながらも、先行きが不透明なマーケットのなかで重要なのは、流行る店よりも残る店、通いたくなくなる店づくり。「ハイクオリティ大衆酒場」はそのための強力なコンテンツ業態となるだろう。

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