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コラム

受け継がれる「グローバルダイニングのDNA」

このところ、グローバルダイニング(以下、GD)を退職した若手たちが独立して飲食店をオープンする動きが急増している。ワイン業態の広がりともあいまって、これからの飲食シーンを面白くしてくれそうだ。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


6月9日、六本木駅より徒歩3分、東京ミッドタウン近くの隠れ家立地に、GD出身の若手4人が「東京バル Ajito(アジト)」をオープン。代表は高瀬篤志さん31歳。2005年、グローバルダイニングに入社し、ラ・ボエム複数店での店長を経験した後、8店舗の統括マネージャーとして活躍したキャリアを持つ。その高瀬さんが、料理長の岩橋 亮さん(32歳)、副料理長の大島 健二さん(28歳)、フロアマネージャーの齋藤 慎之助さん(27歳)とともに、第1号店の出店に乗り出した。全員が共通してラ・ボエムでの経験があることから、イタリアンをベースにしながらも、日本人に馴染みのある“居酒屋”のテイストを多く取り入れ、気軽に毎日足を運びたくなる新たな“東京バルスタイル”を目指したいと、店名にもそれを冠したという。どの時代でも求められるものを、期待値以上で提供することを大切にするという高瀬さん、「新しい店ですけど、昔からそこに存在するような、気張らずに日常使いできる店にしたいです」と話してくれた。
6月1日には池袋駅から徒歩5分の西池袋エリアに、“アジアの旨いもの”を集積させた「AGALICO(アガリコ)」がオープンした。オーナーは大林芳彰さん。共同経営者の酒井亮さんはGDで出会った。大林さんは渋谷、お台場、舞浜など、数々の店舗で店長・料理長を歴任し、酒井さんは店長以外にも、統括マネージャーとして事業を支えるマネジメント側の仕事を経験した。大林さんと酒井さんは、二人でアジアを中心に旅をしては世界の食に触れてきたという。「繁盛店には、必ずヒントがあります」という大林さんは、都内で人気のある飲食店を年間350軒、10年以上食べ歩いてきた。美味しいと思ったメニューを研究し、サービスや店づくりでも自分の店に活かせる点を探し続けてきた。今回もやはりGDのインハウスデザイナーから独立したPUZZLEの若林数正さんを連れてバリにインテリアを買い付けに行ってきた。若林さんは、高瀬さんの「アジト」、青山剛平さんの独立1号店「ワイン食堂 GOCCHI’S(ゴッチス)」や望月大輔さんのたまプラーザ、藤が丘「アジアンビストロ Dai」のデザインも手がけた。
望月さんは、アルバイトからスタート、店長、エリアマネージャーまで10年間をGDで勉強し、昨年プレジャーカンパニーを設立、4月にたまプラーザ店、2月に藤が丘店をオープンし、“田園都市制覇”を狙っている。田園都市線の三軒茶屋で話題の「いやせや」「ワイン食堂 イナセヤKITCHEN」の大西紀之さん、「アガリコ」の大林さんが池袋出店を決めたきっかけとなった「小皿イタリアン&生パスタ 五感」「ピッツァ&ワイン 五感」の石井康之さんもGD出身である。昨年3月にGDの開発部門から独立し、富ヶ谷「tomigaya TERRACE」、恵比寿「Cafe & bar EBISUBASHI」の2店舗を経営しているeasygoingの濱野浩一さんは、「いまGDは厳しい状況にありますが、我々独立組はみんな長谷川耕造さんから多くを学びました。我々が成功することが長谷川さんへの恩返しだと思っている」と語る。その気持ちは、昨年から今年にかけて大量に“卒業”した今回の独立組の経営者たちも同じようだ。
10年前にも独立ラッシュがあった。1999年の株式上場がきっかけとなった。もともとGDには「35歳定年制」という見えざる独立圧力があった。当時、社員持株制やストックオプション制度を利用して独立資金を手にした30代幹部たちはこぞって独立した。デザイナーズレストラン時代でもあり、港区エリアにミドルアッパーターゲットのファインダイニングをオープンした。「サイタブリア」の石田聡さん、「フルトシ」の古里太志さんなどはその代表例だった。「カーディナス」グループや「カシータ」もGDからの転籍組が主軸スタッフとなっていた。「AWキッチン」「やさいや めい」でブレークしている渡邊明さんも元GD総料理長だ。そして2005年には当時副社長だった新川さんが退職し、その後HUGEで独立、「ダズル」「リゴレット」各店を展開する。最近、代官山に「アジエンダ・デル・シエロ」をオープンし、モダンメキシカンのブームを牽引しつつある。
それらの錚々たる先輩たちが活躍した時代と、現在の飲食マーケットの環境は異なる。現在の独立組は資金も豊富ではなく、何千万もかけた店作りはできない。デザイナーの若林さんは言う。「独立1号店に初期投資はあまりかけられません。悪立地の居抜き物件を彼らが妥協できる限界ぎりぎりのところまでコストを下げて内装をやります」。そうした不利な条件をむしろ強みに変えていくパワー。それを今回の独立組の経営者たとは持っている。六本木の「アジト」も池袋の「アガリコ」「ゴッチス」「五感」も普通は出店しないだろうという悪立地で勝負している。彼らは一様に「この街になくてはならない店にしたい」という。HUGEの新川さんは「レストランはその地域の資源にならなければいけない」を持論としている。それは新川さんが長谷川さんから受け継いだ“GD-DNA”だろう。そして、またそれは彼ら新世代の卒業生が受け継いで、これからの飲食シーンを活性化してくれるに違いない。

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