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編集長コラム

シアトル、サンフランシスコの飲食シーンの今

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。

10月中旬、ポートランド視察ツアーの後、一泊でシアトル、二泊でサンフランシスコを駆け足で回ってきた。世界的IT企業の流入で好景気に沸くシアトル、超物価高で格差社会構造のなかでも階層など関係なく、オーガニックライフスタイルが定着しているサフランシスコ。それぞれの都市の「飲食シーンの今」を垣間見て、日本の食のこれからに繋がるような、あるいはコンテンポラリーにシナジーしている現象を取り上げてみた。


シアトルに着くや、真っ先にダウンタウンのマーケット「パインプレイス」へ。観光地だが、1912年創業、市場の屋台からスタートしたスターバックス1号店へ。今は新業態の紅茶の店になっていた。タイムトンネルを抜けて、「未来型スタバ」へ。東京でいえば銀座のようなエリア、キャピタルヒルに昨年12月にオープンした「スターバックス リザーブ ロースタリー&テイスティングルーム」。巨大な店舗は、まるでコーヒーのテーマパーク。おそらく世界一の規模の最新式ロースターがまさにSF映画のシーンのように稼働している。カップやコーヒー関連の小物、雑貨、Tシャツなどの“スタバグッズ”もところ狭しと並ぶ。このスタバロースタリーがオープンしてから、シアトル市内のスタバの売上げは軒並み上がったらしい。“スタバ第二の創業”を訴求する旗艦店といえるだろう。そして、キャピタルヒルエリアの地価も家賃も上昇。店の数も増えているとか。スタバロースタリー近くに出来たオシャレ横丁には、キッチンとコミュニアルテーブルが一体となったレストランもオープン。スタバの街、シアトルを象徴するシーンといえよう。

シアトルのランチは、日本人オーナー、北村太一さんの寿司割烹「田むら」を訪ねた。Amazon本社のあるイーストレイク郊外の幹線道路沿い。2010年7月にオープン。シアトルレストラン大賞も受賞している人気店。北村さんは京都から交換留学で高校生のときにシアトルへ。以来、シアトル大学を卒業してからも飲食の道に。独立したのは27歳。「サスティナブル寿司」(まぐろなどの枯渇が懸念される魚を用いない持続可能な魚介類を使用)をシアトルで2番目に打ち出した。「田むら」の物件は、コンドミニアムの1階。賃貸ではなく購入したとか。コンドミニアムのルーフテラスで野菜も栽培している。「田むら」のコンセプトキーワードは、「イートローカル」「サスティナブル」「シーズナブル」。シアトルの人たちも、地元愛、環境維持には敏感。いや、当たり前のライフスタイルなのだ。

バンクーバーに7年、満を持してシアトルで暖簾分けスタイルで居酒屋「スイカ」をオープンさせたのが木本真さんにもお会いした。「スイカ」は昨年12月にオープン。「スイカ」のあるキャピタルヒルエリアでもラーメン戦争が勃発。「空海」がブレイクした(現在4店舗展開中。台湾人オーナーが北米でのライセンス取得)。フリーモントのラーメン居酒屋「4649」もその一つ。オープンしてまる3年になる。札幌出身のオーナー、小林圭介さんは独学でラーメンを勉強。味噌スパイスラーメンは大ヒット。サイドメニューももはやラーメン店の域をはるかに超え、レストランレベル。ジンギスカンやザンギなど北海道ご当地料理もレベル高かった。Amazonのほか、マイクロソフトやアドビ、アリババなど世界中のIT巨大企業が集まる、これから流入していくるというシアトル。フリーモントエリアはそんなバックグラウンドから飲食店も増えている。日本人経営の店も多い。

キャピタルヒル、フリーモントに続いて、いまシアトルで熱いエリアといえば、「バラード」だ。古い建物を外観は変えずにリノベーションしたレストランやカフェが増えている。どの店もクラフトビールやワインは当たり前だが、ウィスキー専門のレストランも増えている。このエリアも、ますます店が増えるだろう。それにしても、シアトルはこれから面白くなりそうだ。不動産バブル状態なのが気にはなるが、物件選択を間違えなければ、日本からの進出はいまチャンスだろう。福島県双葉町で300年以上続く酒蔵「冨沢酒造店」が、原発事故で近づけない酒蔵に代わる新たな酒蔵を、米国のシアトルに建造しようとしている。目指すは、伝統の地酒「白冨士」の復活。生き残っていた酵母をシアトルに持ってきて再建というストーリー。こうした新しいストーリーも始まっている。地球温暖化で、これから西海岸も気候が北上すると見られる。クラフトビールはもちろん、ワイン、日本酒などの醸造所もどんどん増えていくのではないだろうか。

シアトルからサンフランシスコへのフライトは2時間半。ホテルにチェックインし、ダウンタウンのユニオンスクエア―近くを街歩き。フィッシャーマンズワーフとダウンタウンをつなぐケーブルカーの発着駅も近い。最初に入った店は、メキシカンのファストフードチェーンの「CHIPOTLE」。ファストフードも「オーガニック」「イートローカル」「サスティナブル」がキーワード。やはり、イートグッドは当たり前。2軒目は、全米初上陸の「ミッケラーバー」。スタイリッシュです。ここで現地アテンドを買って出ていただいた二人と落ち合った。市内でカレーのフードトラックと居酒屋を経営しているJayさんとフードライターの関根絵里さん。関根さんは、サンフランシスコで「リアルフード」のムーブメントを仕掛けている方。「リアルフード」とはオーガニックは当たり前、そこにサスティナブル的な理念をさらに深掘りして行こうという動き。私がいま唱えている「イートグッド」とほぼ重なる考え方だ。

いまサンフランシスコで最もホットなミッションエリア。バレンシアストリートの一角は、グルメストリートと呼ばれている。アーティストも多く、「サンフランシスコでいま一番住みたい街」だ。グルメストリートと呼ばれるきっかけになったのが、イタリアン「Delfina Restaurant」。代官山のブルーボトルに出る予定だった「Tartine Bakery」も。そして、並びにはオーガニックスーパーの老舗「Bi-Rite Market」もある。初日のディナーは、サンフランシスコのウォール街、フィナンシャルディストリクトの上、パシフィックアベニューにあるミシュラン二つ星「Quince」のディフュージョンの店。家賃が1ベッドで4000ドルするというIT、金融勝ち組都市のサンフランシスコ。「飲食にはカネを惜しまない」という気質がある。客単価300〜500ドルの星付きレストランは勝ち組たちで連日賑わう。星付きレストランのオーナーたちの流行りは、カジュアルダウンしたり、スピンアウトした客単価100〜200ドルぐらいの店をつくること。当然、鉄板ビジネスだ。

食後、軽く飲みたくて超人気店の「NOPA」へ。客単価は30ドルぐらい。この店が凄いのは客を選ばない、客を帰さないこと。満卓のカウンターで客と客の間にできたわずかな隙間に立ってビールやワインを飲む。それが許される。そんなカオスでフリー、フレンドリーな店だ。いわば、ハイクオリティ大衆酒場。内装もスタイリッシュ。こういう業態に私は新しいアメリカを感じた。市庁舎やオペラハウス、SFジャズセンターなどが立ち並ぶシビックセンターエリアにある「NOJO」。今年の1月、なんとエー・ピーカンパニーが買い取ってシークレット営業をやっている。来年にはリニューアルオープンする予定らしい。二日目のランチはバークレーへ。世界のレストラン50に何度も選ばれたオーガニックレストラン「シェパニーズ」へ。契約農家から届いた野菜、食材を見てメニューを決める日替わり。カリフォルニア料理はここから始まったともいわれる。

関根さんは、『カルフォルニア オーガニック トリップ』という著書のかなで、こう書いている。
「オーナーであるアリス・ウォーターズ(Alice Waters)氏は、地元産・オーガニックの旬な食材を使い、「その日に仕入れた素材の持つ美味しさを生かし、その日のメニューを決める」という、一見当たり前のようで、実に難しいことを今から43年も前にやってのけた人物だ。彼女は、彼女と考えを同じくする地元の優良農家と仕入れネットワークを構築し、ローカル・オーガニックでかつ、サステイナブル(持続可能)な食材を使うことを強く提唱。現在に至るまで、彼女の功績により数多くのサンフランシスコ・ベイエリアのレストランではこの精神が受け継がれている。これも彼女の影響なのかは分からないが、この界隈には健康志向・オーガニック志向のグルメな人々がわんさかいることも事実だ」

バークレーの「シェパニーズ」のあるシェタックアベニュー周辺には、スタバの創業者がいたという「ピーツコーヒー」やビジネスコレクティブモデルの発祥店である「ジュースバー」や「チーズボード」などが並ぶ。ハイエンドなレストランやオーガニックスーパー、カフェなどが並ぶフォースストリート。日本人オーナーシェフの店もあった。サンフランシスコでいま最もホットな開発エリアは、ベイサイドの南側、ドッグパッヂエリアの倉庫街だ。新しいレストランやカフェ、アンティーク家具屋などが次々にオープン。倉庫をリノベーションしたベンチャー系のオフィスも多い。ここに2ヶ月前にオープンしたブリュワリー「Harmonic Brewing」。前職の違う仲間たち3人で立ち上げた。ライ麦を使用したビールなど、新しいチャレンジをしている。

別のクラフトビールの店で、プードルを連れた一人客にインタビュー。
「私はこの上のアパートメントに住んでるんだ。勤め先はヤフーだよ。こうして、休みのときは、犬を連れて1杯6ドルのビールを飲みに来るのさ…」。
家賃は5000ドルとか。サンフランシスコの勝ち組のライフスタイルだ。シリコンバレーのあるサンノベ、サンタクララで焼鳥屋から始めた日本人オーナーの繁盛ラーメン店「Orench Beyond」。炉端業態もオープンしている。シリコンバレーでアメリカンドリームを実現させた飲食店オーナーがいる。素晴らしいことだ。シアトル、サンフランシスコと回り、想像以上にイートグッドがすでにライフスタイルとして定着していることに驚いた。ファストフードからアッパーなレストランまで、飲食ビジネスの軸はいまやそこにある。西海岸各都市から吹き始めた風は全米に波及し、そして、いま日本に届いてきている。日本の食シーンの近未来がここにはあった。

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